加齢に伴い、多くの人が心配する病気の一つ「認知症」をいかにして予防するかをご紹介します。
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認知症は年齢ではない
認知症は、いわば脳の働きが″枯れてしまう″病気ですが、
枯れさせないコツは一般の人ができないような難しいものではありません。
高齢にもなれば誰もが認知症になる、と思い込んでいる人もいるでしょう。
確かに、定年退職などで生活パターンが変わり、
何年か過ぎると認知障がいを起こす人も多く、
医者の間では「定年認知症」という言葉もあります。
一方、何歳になっても認知症にならず、生き生きと活動する人も。
3人のうち2人は生涯、認知症にならないとも言える調査結果もあります。
つまり、病の原因は年齢ではないのです。
なのに、多くの人が不安を抱く理由は、今の社会が、やみくもに認知症の人を数え、
元気で長寿な人への研究が少なく、脳の取り扱い方が知られていないからだと
私は考えています。
定年後の認知症を防ぐ
リスクの確認
まず、自分が定年認知症のリスクをどの程度抱えているか、確認してみてください。
〈40~50代の人〉
□仕事に自信がない
□帰宅時間が不規則
□仕事に計画性がない
□20代の時に比べて体重が明らかに増えている
□健康診断で高血圧、糖尿病、脂質異常症のいずれかに指摘事項がある
□独身で趣味がなく、近くに話せる友人や家族もいない
□休みを十分取っていない
□一日中、1言も話さないことがある
□疲れ目、肩凝りを自覚
□全く外出しないで、日に当たらない日が何日もある
〈60代以上の人〉
□健康診断では指摘事項が二つ以上ある
□体重が標準体重以上ある
□食事の量は夜が一番多い
□お酒は毎日欠かさない
□休日は外出したくない
□家族との会話が少ない
□自宅と職場の周辺以外、よく知っている場所がない
□将来計画を立てていない
□何を食べるか、自分では食事を決められない
□″テレビのない生活″は考えられない
ー該当の項目が多いほど脳機能低下のリスクは高く、半数以上あると″赤信号″。
過度に悲観する必要はありませんが、この後に述べる点を意識して改善しましょう。
脳幹を守ろう
私は今までの研究者の概念を基に、大の脳を機能的に次の三つの層に分けています。
①脳幹(生命の中枢)
②大脳辺縁系(感情の中枢)
③大脳新皮質(理性の中枢)
第1層の脳幹は、睡眠と覚醒、体温調節など生命維持に欠かせない機能をつかさどる部分。
睡眠と起床、食事、排せつ、歩行、大との会話等が健康的にできれば、大はいつまでも
自立して生活することができるでしょう。
これを保つのに、私は必ずしも脳トレや薬が必要とは考えておらず、「脳幹を守る」
生活習慣を勧めています。
具体的には「規則正しく食事を取り、毎日同じ時間に起きて同じ時間に寝る」
-これが最も重要です。
脳を本にたとえると、脳幹は根や幹に当たります。
植物は根や幹が正常でなければ、葉を茂らせて花を咲かすことはできません。
脳も同じで、脳幹が正しく機能しないと、大脳辺縁系や大脳新皮質にも影響が出るものです。
第2層の大脳辺縁系は、感情や欲望をつかさどる部分。
意欲や喜怒哀楽といったエネルギーを生みますが、感情的に暴走しないように
第3層の理性がコントロールします。
会社員時代は、所属組織にもコントロール機能があるので、感情が抑えられていた人は
退職後、暴走する場合も。
社会と関わりを持ち、自分の感情をコントロールする習慣があるかが大切です。
第3層の大脳新皮質は、人類が磨き上げた知的精神そのもので、進化の結晶。
ただ、磨く努力をやめると短期間に機能が低下します。
これまで覚えた知識や能力は、簡単に忘れないようにしましょう。
生涯、成長を
ある企業の重役は、最近、仕事のミスが多くなったのを心配し、私の外来へ。
脳画像を見ると、大脳新皮質の司令塔である「前頭葉」の一部が活動を停止。
この状態が長く続くと、脳細胞が枯れていくと予想されました。
そこで、私か提案したのは「新聞の見出しを毎日10個、ノートに書き写す」こと。
会話に「これ」「あれ」等の代名詞が多かった彼の脳には、新聞に出てくる固有名詞で、
新しい情報を処理する訓練が効果的だからです。
他に十分な睡眠なども勧めました。
すると3ヵ月で仕事のミスは減り、本人も気にならない状態に。
この習慣の継続を促し、通院は終了としました。
また、定年退職した67歳のAさんは、特に病気はないのですが私の所へ。
現役時代と違って充実感の乏しい生活に″これでいいのか″と疑問を感じたようでした。
人はストレスで成長するもので、ストレスのないことが脳のストレスになる場合も。
人生には目標が不可欠です。
定年後も花実を付ける樹木として″生涯、成長しよう″という意思が大切。
なぜなら、脳には定年がないからです。