「発達障害」は、障害なのか性格なのか、
理解されにくいところがあり、
そのため本人も周囲も悩みや生きづらさを
抱えがちです。
しかし、正しい認識に基づき、
適切に対応することで、
つらさを軽減したり、
特性を長所にしていくこともできます。
そこで今回は、子どもの発達障害に
ついての正しい理解を得るための情報を
ご紹介します。
生まれつきの「脳機能の障害」
「発達障害」は、
生まれつきの脳の働き(機能)の障害で、
主に感覚・知覚・認知(学習、記憶、思考)・
言語・情動といった心をつかさどる機能に、
偏りが見られるものです。
もともと偏りは、誰にでもあり、
それが個性というものですが、
それが極端な場合、
社会や集団への適応がうまくいかず、
さまざまな問題が生じてしまうのです。
例えば、不登校などは、
学校集団への適応が
うまくいっていない場合が多いですが、
背景に発達障害がある可能性もあり、
そのことを踏まえて対応しなければ、
状況をさらに悪化させてしまう
ことにもなります。
発達障害の原因は、
はっきりとは分かっていませんが、
遺伝的な要因に加えて、
環境的要因(高齢出産、
あるいは妊娠中の感染、
アルコールや喫煙、低栄養、
環境化学物質)が
影響するとも考えられています。
かつては、親の育て方やストレスが原因と、
よくいわれていましたが、
今ではそうした考えは、
はっきり否定されています。
コンピューター断層撮影(CT)や
磁気共鳴画像装置(MRI)など、
脳の画像検査を用いても、
異常がないことがほとんどです。
発症は男児に多く、
男女比は4対1とされています。
発達障害は、それぞれの特性によって、
下記のようなものがあります。
また、特性のいくつかが重なっている
ことが多く見られます。
全身や手先の運動がうまくいかず
「なわとび」「自転車に乗る」
「字を書く」といった一連の動作が
極端に苦手な人もいます。
てんかんやチックなどが併発する
こともあります。
成人した、発達障害のある方の中には、
統合失調症などの心の病と
間違えられることがあり、
成長期のいじめなどが原因で、
うつ病や社会不安障害を
引き起こしていることもあります。
①自閉スペクトラム症(ASD)
今までは「自閉性障害(自閉症)」
「アスペルガー障害(アズペルガー症候群)」
などといわれていましたが、
最近は自閉スペクトラム症(ASD)と
総称されるようになりました。
他人と上手に関われない、
視線を合わせること、
身ぶりや表情などでコミュニケーションを
取ることが苦手――
などといった特徴があります。
会話の不自然さがあったり、
感情の共有・相手の気持ちを
理解することが上手にできません。
こだわりや執着が強く、
気持ちの切り替えが難しいところもあります。
一方、興味のあることには非常に集中し、
詳しい知識を持ち、
周囲を驚かせる人もいます。
感覚の過敏性や鈍麻性から、
同じ服を着続けたり、入浴を嫌ったり、
日常の生活に影響することもあります。
また、くるくる回ったり、
手をひらひらさせるなどの
常同行動が見られることもあります。
②「注意欠如・多動症(ADHD)
集中できない、じっとしていられない、
考えるよりも先に動くといった、
「不注意」や「多動性」「衝動性」
の特性があります。
多動性には、授業中に立ち歩くなどの
「移動性の多動」のほかに、
姿勢が崩れるなどの「非移動性の多動」
もあります。
おしゃべりが止まらないのも
口の多動といわれています。
衝動性の特徴として、
思い通りにならないことへの
我慢ができず、順番やルールを守る
ことが苦手だったりします。
また、人の話を聞いていない、
忘れ物やなくし物が多いなど、
不注意の特性だけが強いと、
発達障害と気付かれにくいこともあります。
③限局性学習症(SLD)
これまで「学習障害(LD)」
といわれていたものです。
聞く・話す・読む・書く・計算・推論
などの学習の基礎的能力の中で、
特定の能力の習得と使用に
著しい困難を示します。
中でも読む・書く・計算に困難を示す場合が、
SLDと定義されています。
全般的な知能の遅れはなく、
学習と認知能力などに
アンバランスさがあります。
作文などの長い文章が書けない、
文脈がおかしい、算数の応用問題が
解けないなど、小学校に入学してから、
学習につまずきが出てきます。
気付くのは3歳から就学前後が多い
発達障害と気付くのは、
3歳から就学前後が最も多い
とされています。
子どもの発達(成長)は
個人差が大きいので、
あまりに幼いと判断が
難しい場合があるからです。
しかし、子どもが発達障害と
診断されると、
振り返って考えると乳児期から
思い当たることがあったと
感じる人が多いようです。
例えば、あやしてもあまり反応がない、
視線が合わないなどは、
自閉スペクトラム症の子どもに、
多く見られる症状の一例です。
本当は、そうした幼い頃に
発達障害に気付くことが大切です。
成長が目覚ましい乳幼児期にこそ、
発達を促すような関わりを
意図的に行うことが、
大きな効果があるからです。
そのためにも、今後は、
母子保健法で実施が
義務付けられている1歳6ヵ月健診で
発達障害に気付き、
発達を促すプログラムを
速やかに受けることができる
システムの構築が期待されています。
同健診の受診率は非常に高く
96%を超えています。
もちろん、この時期を過ぎたら
意味がないということではありませんが、
早く気付いて早く支援を始めることが、
育児に悩む家族への助けにもなるでしょう。
1歳では何も分からない
という人がいるかもしれませんが、
アメリカでは、
ESDM(アーリースタートデンバーモデル)
といって、1歳から始められる
早期療育プログラムが行われています。
このESDMを参考にした
「気づいて・育てる超早期療育プログラム」は
次のようなものです。
①子どもが興味を持つものを見つける
②親が子どもの視野に入る
③体が触れ合う遊びをする――
など、発達障害があってもなくても、
行ってあげてほしいものばかりです。
集団生活を始める幼児期には、
明らかに他の子どもたちとの違いが
見えてきたり、
他の子どもたちとのトラブルが、
発達障害を発見するきっかけになります。
お友達のおもちゃを黙って奪い取る
などの行動があったら、気付いたその場で、
「いきなり取るのではなく、『貸して』と
言ってみようね」など、
適切な行動を伝えることが大切です。
初めから高い目標を設定するのではなく、
ちょっと努力したら越えられそうな
小さな目標を設定して、
上手にできたら褒める
(スモールステップ)といった
地道な努力が大切になります。
また、学齢期になれば、
学習面での特性が目立つように
なるでしょう。
運動の苦手さなどが、
いじめの対象になる例も
ありますので注意が必要です。
劣等感や挫折感が強くなると、
自分に自信が持てなくなり、
最初に述べたように不登校や
引きこもりなど、学校集団への
強い不適応を引き起こすこともあります。
早期から特性に合った支援を
発達障害に早く気付くことは重要ですが、
単に診断名を付けることが目的ではありません。
一人一人の障害特性に気付き、
理解し、特性に合った対応(支援)を
していくことが大切です。
ここでは、対応の基本について紹介します。
①社会性をもたせる
小さな時から適切に
働き掛けることで、
少しずつ社会性を身に付けて
いくことができます。
自閉スペクトラム症の子どもたちは、
もともと同年齢の子どもたちと
接することが苦手です。
嫌がるからと避けていては、
問題が大きくなります。
子どもの遊びの広場などに
誰もいないうちに連れていき、
安心できる隅っこで大好きな
おもちゃを持たせるなどして
遊ばせます。
少しずつ友達が増えていくこと
(嫌がる人数になったら無理せず帰る)
に慣れさせることが、
耐性を付けることにつながります。
②集団生活ができるように
人と関わることが上手に
できないからこそ、
集団の中に入ると
トラブルが起きます。
ですが、子どもは集団の中で育ちます。
多少、他の子とトラブルが
あったとしても、それが他者との
関わり方を学ぶ機会にもなります。
ただし、周囲の大人が積極的に
適切な行動を伝えて
いくことが大切です。
そして、上手に行動できたら、
大いに褒めてあげることが、
その行動を定着させ、
人と関わる力を高めることになります。
ゲームや遊びを上手に使って
楽しくルールを学ぶこともお勧めです。
③我慢の力を育てる
小さい時からの積み重ねが大事です。
ちょっと我慢する習慣を付けましょう。
泣いたり騒いだりするからと、
要求を聞いてしまっては、
我慢が育ちません。
前もって約束をし、
その約束は変えないようにしましょう。
いったん破られると、
次に守らせることがとても
難しくなります。
ただし、どうしても難しいときは、
親も譲る代わりに、
ちょっと条件を付けて
小さな我慢をさせます。
テレビやゲームも、
時間を約束しましょう。
幼児のうちは、
動いたり触ったりして実感する、
体の五感を育てることが大事です。
バーチャルリアリティーに
触れ過ぎると、
正しい五感が育ちません。
幼児期は、体を動かし、
いろいろな体験をさせるよう、
工夫してください。
④こだわりを変えていく
周囲に自分のこだわりを
強要するなどの様子が出てきたら、
あえて時々こだわりを崩したり、
変えていくことも必要です。
大人になってから困ることは、
早めに切り替えましょう。
⑤得意・不得意を知る
得意な部分を伸ばし、
一方で、不得意な部分は、
支援を工夫してみましょう。
注意散漫で、長く集中できなければ、
勉強する場所をついたてで仕切る、
その時間はテレビを消し、
話し声はあまり立てないようにする。
時間は短く、課題も少なくして、
やり切ることを目標にします。
おもちゃなど必要のない物はしまい、
音などの刺激をなくすといった
環境づくりも必要です。
20分集中したら、
10分はごろごろしても良い
くらいの気持ちで「集中する習慣」
を作っていきます。
1時間頑張れなどと、
できないことを求められ続けると、
意欲をなくして、いらいらし、
負の感情が強くなります。
一方で、どんなことに集中できる
のかも見つけていきましょう。
手の動きが悪く、
字がきれいに書けない子に、
何十回も練習させてストレスを
ため込むよりも、
3回、その子なりにきれいに
書けたら終わりにして、
その時間を楽しく得意な分野に
向けましょう。
最近は、授業中にタブレットや
パソコンを使うなどの支援も
取り入れられています。
⑥感情的に怒らない
感情的になっても、
子どもを興奮させるだけで
大切なことが伝わりません。
「怒る」と「叱る」は別物です。
高圧的、頭ごなし、
くどくど言うのは禁忌です。
冷静な態度で、
はっきりとした口調で、
伝えるポイントを絞って伝えましょう。
友達に暴力を振るう、
物を壊すなど、
やってはいけないことは、
はっきりダメと言いましょう。
ただし、その後で、
やった理由を聞いてあげましょう。
そして、代わりに
どんな行動を取ったらよかったのか
を一緒に考えて、
今度はそのようにやってみよう
と励ましましょう。
後から注意するのではなく、
すぐその場で伝え、
一緒に考えることが大切です。
関わりの工夫の効果がなかったら専門家に相談
発達障害があるかもしれないと思った時には、
関わり方を工夫してください。
それでもダメなら、
専門家に相談してください。
子どもの状態によっては医療につなげ、
療育を受けることが発達を促すことになります。
主な相談窓口としては、
保健センター、発達相談センター、
子ども家庭支援センター、
教育相談センター、
総合病院(小児精神科、児童精神科)
などがあります。
周囲の社会的環境に
適応できないままに放置すれば、
不適応な状況が悪化しますが、
早めに支援し、
適応力を身に付けることができれば、
個性として収まる部分もたくさんあります。
もし、いろいろと工夫してみても、
多動や衝動性が収まらず、
反抗的言動が高まるようであれば、
それは、現時点では本人の
情動コントロールの力が
非常に弱いということです。
そのような時は医療的ケア
(投薬治療)も組み合わせましょう。
本人が頑張れば、
自己コントロールができるくらいにまで、
体内環境を調整します。
特に、思春期青年期は、
心身共に不安定になる時期です。
この時期を無事に乗り切るためには、
一時的に医療的ケアを併用することも、
賢いやり方といえます。
中学生になってからでは、
受診も非常に難しくなるので、
健康診断代わりに、
早めに定期的に受診する習慣を
付けておくことも大切です。
医療的ケアの間も、
心理的支援は続けていきますが、
一方で、本人の成長によって、
力が伸びてくる部分もあります。
いずれにせよ、
この時期にこじらせないことが
一番大切です。
発達障害の特性があっても、
環境に適応できる力が身に付けば、
障害と言う必要はなく、
それはもう個性なのです。
人は変わることができるのです。